明治16年、群馬県前橋市で、大火事が起こりました。
その時、4人の男たちが「住吉屋が火元である」と警察に証言しました。
住吉屋の主人宮内文作さんは、「自分は家にいたから出火していない」と答えましたが、警察は信じてくれません。
幸い、女の子の証言によって有罪を免れたものの、うわさを信じる町の人々によって、町を追われてしまったのです。
宮内さんの心は収まりません。
「あの4人のために、人生はめちゃくちゃになった」と憎しみと恨みでいっぱいでした。
そんな時、笛木角太郎という伝道者が彼を訪ねて来ました。
「今度のことは、大変でしたね。私は何の援助もできませんが」と言って、彼に1冊の聖書を渡しました。
その日から、宮内さんは聖書を読み始めました。
読んでいるうちに、イエス様の言葉と、その生き方に感動しました。
「恨みを持ち続けながら生きるのも一生、それを赦して心軽やかに生きるのも一生」と、宮内さんは徐々に4人の人たちを赦せるようになってきたのです。
それから14年たったある日のこと。
「会いたがっている人がいる」と言われて病院に行くと、危篤状態のおばあさんがいました。
そしてこう言ったのです。
「死ぬ前どうしても、あなたに伝えたいのです。14年前の火事は、あなたの隣に住んでいた人に恨みがあって、私が火をつけたのです。
あなたにはひどいことしました。あなたに謝らなくては、死にきれません」と。
宮内さんはこう答えました。
「おばあさん。あの事件のおかげで、私はイエス様の恵みの世界、赦しの世界、愛の世界を知ることができました。
今は心が平安で、細々とだが孤児院で子どもたちの世話をさせていただいています。
あなたのおかげで導かれたと言っても、過言ではありません。だから、今ではむしろ、感謝しています」
宮内さんはそのおばあさんに、イエス・キリストが自分たちのために、十字架で身代わりに死んでくださったことを話しました。
すると、おばあさんはイエス様を信じたのです。
そして、穏やかな顔で召されたのでした。
「それゆえ、神に選ばれた者、聖なる、愛されている者として、あなたがたは深い同情心、慈愛、謙遜、柔和、寛容を身に着けなさい。
互いに忍び合い、だれかがほかの人に不満を抱くことがあっても、互いに赦し合いなさい。主があなたがたを赦してくださったように、あなたがたもそうしなさい」(聖書/コロサイ3:12~13)